面映おもは)” の例文
一体、私はそういう自分の幼時のことを人にいたりするのは何んだか面映おもはゆいような気がして、自分からは一遍も人に訊いたことはない。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女史は少し面映おもはゆげに、プラチナの腕輪のはまった手を伸ばしてその白い西洋封筒を受けとりながら——これは十円紙幣かな——とドキッとした。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それとまた、佐渡は、昨夜からの自分の焦躁しょうそうが、この返書に対して、面映おもはゆくあった。謙虚な心の持主に対して、少しでも疑ったことが自ら恥じられた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「改まって何の用ぞいのうおほほほ」と、何気なく笑いながらも、やや面映おもはゆげに藤十郎の顔を打ち仰いだ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
笛の名人豊住又七は麻の夜具から頭だけ出して、面映おもはゆそうにちょっと会釈した。あの晩から熱が出たと言って、枕もとにはオポピリンの入った湯呑茶碗なぞが置いてあった。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
窓通いの現場を発見されたのが面映おもはゆかったのか、それとも、今後恋路の妨げをしないようにお世辞を使っとく必要ありとでも認めたものか、あの、私が夜中に窓をあけた翌日
満場の視線が、明るいライトを浴びた我々に集まり、むずかゆい様な面映おもはゆさでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
湯島あたりのかげまか、歌舞伎かぶきの若衆でもなければ見られない面映おもはゆい扮装いでたち……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と女房は急に面映おもはゆそうに眼を伏せ、顔を赤めて、あの時はいろいろお世話になりました、恥かしゅうて、よう人に顔が合わされん、と遠慮したような笑い方をし、うちのは居りましたよ
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「そっとしておれよ、面映おもはゆいからの」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さよう……。恥の多い前身の名を申し上げるは面映おもはゆいが、実は、わしは、興福寺にいた教信沙弥きょうしんしゃみでおざるよ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆村はそれを聞くと面映おもはゆげにニッと笑い
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
千早の戦いなどを、事大に、言いはやされるなどは、正成にとり、面映おもはゆいことでしかありませぬ。あの善戦をなしえたのは、時の御稜威みいつ、また時の人心が支えたもの。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「醜い——恥かしい——それはもう上人様のまえで申すも面映おもはゆいことでござりますが、実は」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(このごろは、ちと貴族のような)と聖光院のきらびやかな生活を面映おもはゆくも思い
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武蔵どのには、ちと面映おもはゆかろうが」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仰山ぎょうさんにいわるるなよ。面映おもはゆいわえ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)