雛僧すうそう)” の例文
無作法のおとがやっと奥に通じて、雛僧すうそうが一人出て来た。別に宝物ほうもつを見るでもなく、記念に画はがきなど買って出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いつの頃か、学寮に篤学な雛僧すうそうがあって、好学の念やみ難く、夜な夜な同僚のねしずまるを待って、ひそかに本尊の油を盗んで来て、それをわが机の上にともして書を学んだ。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雛僧すうそうあり、寺の縁起を説くのかたはらけいに下るべきの路あるを指點し、わが爲めに導をさんことを乞ふ。則ち共に細徑さいけい竹林ちくりんうちに求め、石にすがり、岩にりて辛うじて溪に達す。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
が、惜しい哉、十年前一見した時既に雨漏あまもりねずみのための汚損が甚だしくして見る影もなかった。当時案内の雛僧すうそうを通じて補修して大切に保存すべき由を住職に伝えたが、今はドウなったか知らん。
今宵も例によって人定まるを待ち、本尊の油を盗んで、この廊下を戻る篤学の雛僧すうそう。それとは知らぬ番僧どもは、有無うむもいわさず、叩き伏せ叩きのめしてしまうと、もろくもあえなき最期さいごを遂げた。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)