さも)” の例文
しかし今度のは——こう謂っちゃさもしい様ですが——礼金が欲しさに働きましたので、表面おもてむきはともかく、謂わば貴下に雇われたもおなじでございます。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その強烈な香りが梯子段とつつきの三疊の圭一郎の室へ、次の間の編輯室から風に送られて漂うて來ると、彼はこらへ難いさもしい嗜慾にあふり立てられた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ビーヤホールの女などと、面白そうにふざけていることの出来る男の品性が、さもしく浅猿あさましいもののように思えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
真白なけもの、私は顫へて自分の身体がさうしたさもしい不思議な白いけものに変化してゆくのではないかと思つた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
季節の變るたびに集まつた旅役者も大方は新顏のさもしい味も風情もないものになつて了つた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
真闇まつくらな向ふの路次口に転がり落ちて逃げてゆく猫の滑稽な動作を想像した、而して急に勝ち誇つた感情の弛緩とさもしい皮肉な冷笑とが多少の可笑をかしみをさへ交へて私の心に突き上げてきた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わがづる小さくさもしくいぢらしき白栗鼠しろりすのごと泣くは誰ぞや
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あとにさもしく笑ふなり
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)