門付かどづ)” の例文
もとよりそれは本格の平家でありましたけれど、門付かどづけをして歩いて、さのみ人の耳を喜ばすべき種類のものではありません。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして端役はやくに出る無表情でばかのような三人の門付かどづけ娘が非常に重大な「さびしおり」の効果をあげているようである。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「芸があるんだよ、あたしにゃアね。めったに人に見せられない芸だけれど、壺を探しかたがた、その芸を売り物に、安公と二人、門付かどづけをしてみようじゃアないか」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
近頃の記録に出ているのは、すべて願人坊主がんにんぼうずに近い門付かどづ物貰ものもらいのであったが、それでもまだ彼らの唱えあるいた歌詞などの中には、比較に値する僅かずつの特徴が伝わっている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
逗留客が散歩に出る。芸妓げいしゃが湯にゆく。白い鳩がえさをあさる。黒いつばめが往来なかで宙返りを打つ。夜になると、蛙が鳴く、ふくろうが鳴く。門付かどづけの芸人が来る。碓氷川うすいがわ河鹿かじかはまだ鳴かない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
以前三味線しゃみせん門付かどづけをしていた女であろうと、また、彼女の亭主の勘作がどこかの炭坑稼ぎにあぶれて、この村に流れこんで来た者であろうと、そんなことはまるで問題ではなかったのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
酒気を帯びた声が、平次をのっけから門付かどづけ乞食扱いにします。