長煩ながわずら)” の例文
……俺の父、甚右衛門の長煩ながわずらいを、どうして御存知か、蕗のとうは、痰持たんもちに無二の薬、病人にやるがよいと、下されたのだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくし長煩ながわずらいで、人参の入った薬を飲めば癒ると医者に申されましたが、長々の浪人ゆえ貧に迫って、中々人参などを買う手当はございませんのを、これが案じまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
和田峠合戦のあとをうけ下諏訪しもすわ付近の混乱をきわめた晩のことで、下原村の百姓の中には逃げおくれたものがあった。背中には長煩ながわずらいで床についていた一人の老母もある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この土地の領主は三年あまりの長煩ながわずらいで去年の秋に世を去った。その臨終のふた月ほど前に、嫡子ちゃくしの忠作が急病で死んで、次男の忠之助を世嗣ぎに直したいということを幕府に届けて出た。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それも畳の上で長煩ながわずらいして看病をした上の臨終でないだから、なんたる因果かと思えましてね、愚痴い出て泣いてばいいます、それにお隅は自分の部屋にばい這入って泣いて居るから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
第一、姉さんが素晴しい元気で、長煩ながわずらいの後の人とも思われないということは、小父さんがよくこぼしこぼしした、「よねの病気は十年の不作」を取返し得る時代に向いて来たかのようであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
じきに大門町にいるいもとですが、平常ふだん丈夫でございましたが、長煩ながわずらいを致しましたので、手伝いにまいりまして、伯母が一人ございますが、其の伯母はわたくしのためには力になってくれました
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
繼「なに仮令たとえ半年一年の長煩ながわずらいをなすっても私が御詠歌を唄って報謝を受けて来れば、お前さん一人位に不自由はさせません、それに私も少しはたくわえが有るから、まア/\決して心配をなさるな」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)