鐚一文びたいちもん)” の例文
彼女は長年の訓導生活で万金のヘソクリがあるからそれを見こんで庄吉が騙しにくるのだけれども、もう鐚一文びたいちもんやらないことにしている。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかし、それにしても、わしからは鐚一文びたいちもん取れるわけじゃないんだから。わしはな、アレクセイさん、この世にできるだけ長く暮らすつもりですよ。
「どうもさっきから妙にごまをすると思ったら果してこれだ、ならん、もうおまえには騙されん、理由のいかんに拘わらず鐚一文びたいちもんださぬからそう思え」
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無くなると有る奴をそねんで、あんな騒ぎを持ち上げる、あんなのを増長させた日には、真面目まじめかせいでいる者が災難だ、わしは鐚一文びたいちもんもあんなのに出すのは御免だ
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道端に乞食が一人しゃがんでしきりに叩頭ぬかずいていたが誰れも慈善家でないと見えて鐚一文びたいちもんも奉捨にならなかったのは気の毒であった。これが柴とりの云うた新坂なるべし。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「じょ、冗談じゃない。札束なんか入ってるもんですか。鐚一文びたいちもんも入っちゃいませんでしたよ」
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
まして私ごとき鐚一文びたいちもんの関係もない一介いっかいの僧侶が、国際上の事に関係したかのように思わるるのは味気あじけなき事と、余りの事に私はあきれ果ててしばらく何もいわずに居ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あっし鐚一文びたいちもん世話になったんじゃあねえけれど、そんなこんなでおめえ、その少姐ねえさんが大の贔屓ひいき
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、金はもう、老先生には鐚一文びたいちもん出しません。失くなすのは判っているんだから。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は甥のリケットと、死んだグヰンとを一緒にする事に反対はしなかったが、良夫おっとは何故かグヰンをひどく嫌っていて、そんな女と結婚するなら鐚一文びたいちもんもやらぬ、といっておりました。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
わたしのところでは鐚一文びたいちもんだってとれないんだよ、うちの商人にもそういっておいたから(あのかたはサムソノフ老人のことを『うちの商人』と申されますので)
貧窮組なんぞへ入る人間は一人もねえんだとよ、そんなところへ出す銭は鐚一文びたいちもんもねえんだとよ、みなさん方に了簡がおありなさるなら了簡通りになさいましとぬかしたぜ。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もう鐚一文びたいちもんやらないことにしてゐる。
オモチャ箱 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
が、今度という今度は、フョードル・パーヴロヴィッチにも鐚一文びたいちもんとることができなかった。