かぶら)” の例文
そのきわどい一瞬間、大鼠山の方角から、かぶらの音が高く聞こえて、窓を通して一本の鏑矢広間の壁に突っ立った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おめき叫ぶ声、射ちかうかぶらの音、山をうがち谷をひびかし、く馬の脚にまかせつつ……時は正月二十一日、入相いりあいばかりのことなるに、薄氷うすごおりは張ったりけり——
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「矢尻が、煙管きせるの吸口のやうになつて居るだらう、——このかぶらの中になにか入つて居るに違ひあるまい」
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
今では、義仲の書記として、名も大夫房覚明と改めていた。覚明は誠心こめて、戦勝の祈願文を書き綴った。それに義仲始め十三人の上矢うわやかぶらをぬいて、御宝殿に納めた。
が、染め羽白羽のとがり矢は、中には物々しいかぶらの音さえ交えて、またひとしきり飛んで来る。後ろに下がっていた沙金しゃきんでさえ、ついには黒い水干すいかんそでを斜めに、流れ矢に射通された。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
落した実を拾ひあつめて殻をわると舟のやうなのや、かぶらのやうなのや、つやつやしたのが隔壁のなかにしつくりとくひあつてゐる。その形にしたがつて もう、じやあ、とこ、かい などと呼ばれる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
この恋の、かぶら
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
平次はそつと喉笛に突つ立つた、楊弓の矢を引拔いて見ると、これは何んと、唯の楊弓の矢と違つて、その根は一種のかぶらになり、毒蛇の首のやうに、不氣味なフクラミを持つて居るのです。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「その矢は、かぶらになつた矢尻やじりが重いから、楊弓ぢや飛ばない」
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)