鍔際つばぎわ)” の例文
あわや絶体絶命の鍔際つばぎわになったときに、伜の兄が弟に眼くばせをして、素知らぬ顔でその竈に火を焚き付けてしまった。いや、どうも怖ろしい話です。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ブルッと彼は身顫みぶるいしたが、みるみる精気が全身に充ちた。と刀がさや走り、その切っ先から鍔際つばぎわまであたかも氷の棒かのように、月の光に白み渡ったが
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愛蔵の来国俊の鍔際つばぎわから、美濃紙八つ切の紙が一枚、半分ほどを紙縒こよりにしたのがヒラヒラとブラ下って、その紙の端っこの方に、最も職業的な悪達者な文字で「見切物」と三字
「うぬの命の鍔際つばぎわにゃァ主の首まで打つじゃまで、だ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「本郷の殿様」はふるえる左手で、刀の鍔際つばぎわをひっつかんだ。眼では老儒者を睨んでいる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、鏘然しょうぜんたる太刀の音、はじめて広太郎抜き合わせ、危く鍔際つばぎわで受けたらしい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鍔際つばぎわを握った左の手が、ガタガタふるえているらしい。刀のこじりが上下して見える。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
セセラ笑いを洩らしたが、それでも左手を鍔際つばぎわへやると軽く鯉口をくつろげた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういう鈴江を守るようにして、鈴江とすれすれに肩を並べ、大小の鍔際つばぎわをおさえながら五十嵐駒雄は走っていた。出来事が出来事であるがために、無駄な駄弁などをろうそうともしない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大小の鍔際つばぎわ引っ抱え十間余りも走り抜ける。この時またも呼子の背後うしろに当たって鳴り渡ったが、とたんに両側の人家いえの屋根から大小の梯子幾十となく、甚内目掛けて落ちかかって来た。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「世辞にもうまいとは云えねえなあ。力はある、そいつは認める、太刀さばきは落第だぜ。鍔際つばぎわをしっかり、握った握った、それから浮かすのよ、柄頭つかがしらをな。解ったらもう一度切り込んで来い!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)