鉤形かぎがた)” の例文
鉤形かぎがた硬嘴こうし爛々らんらんたるその両眼、微塵みじんゆるがぬ脚爪あしつめの、しっかと岩角がんかくにめりこませて、そしてまた、かいつくろわぬ尾の羽根のかすかな伸び毛のそよぎである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
顔は黒ずんだ嗅煙草色で、鼻は鉤形かぎがたに曲っていて長く、眼は豌豆えんどうのようで、口は大きく、歯並は立派、それを見せびらかしたいらしく口を耳まで開けてにたにた笑っている。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
顔をのぞいて、武蔵は、鎌のを、爪でひき出した。青じろい刃とが、鉤形かぎがたになった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭はかなり広く、鉤形かぎがたになっていて、客殿の前には泉池があった。白い土塀どべいをまわした、どちら側も塔頭だろう、左のほうから(法事でもあるとみえ)鉢鐘と読経の声が聞えて来た。
屍体は寝衣ねまきの上に茶色の外套を羽織り、腰を奇妙にほこ立ててしゃがんだ恰好かっこうのまま上半身を俯伏しているが、両手は水牛の角のような形で前方に投げ出し、指は全部鉤形かぎがたに屈曲している。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「これは失礼。だが、不眠症になるような取引を申しこまれたのはどこのマクロー様かね。」太田ミサコは鉤形かぎがたの鼻を鳴らして殺風景な部屋椅子に腰を下ろすと、埃のつんだ卓子テーブルに片ひじついて
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
短躯で、禿頭で、鼻が小さく鉤形かぎがたに曲つてゐて、眼の輪郭がはつきりしてゐて、見てゐると彼の日に燒け土と垢で汚れた風貌の中から、何となく伊太利イタリーの農夫のやうな印象が現はれて來るのである。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)