鈍々どんどん)” の例文
虚勢を抜いて、彼らが、気のついたころには、土肥庄次郎は、その肥えた体を、鈍々どんどんと足早にすすめて、健吉とよぶ侍の後を追っていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左の手を大太刀の鯉口に当て、右手で自分のあごをツネるような恰好をもちながら鈍々どんどんと道をのぼりかけている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八瀬牛やせうしの真っ黒な毛なみの背がもりあがった。おおきくて、鈍々どんどんと、しかし決してあとへは退かない牛の脚である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山田を出た武蔵もまたこわい眉と唇を持って、痛む足をひきずりながら、鈍々どんどんと、跛行びっこをひいてここを通った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心の富むすべを——心はいつも幸福で無碍むげ自由にこの世を楽しむことができるのが常であるのを——それを知らないあなた方は、それを宿命のように、鈍々どんどん
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうときは、彼の鈍々どんどんたる“ぶらり駒”の無能らしさも、大いに彼の便宜であったといっていい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その渋沢栄一と並んで、道場の模範生だった土肥庄次郎は、藩の近習番頭取とうどり、土肥半蔵の長男だった。いつも、鈍々どんどんとして、竹刀しないを持っても、間のぬけたところがある。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鈍々どんどんたる足つきで、顔をふくらませて来る又八をながめて、お杉隠居は、若い者のようにれた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
増上寺の五重の塔を見上げたり、伽藍がらんの横の松の樹を撫でて見たり、塀のそばに近づいて見たりしながら、唖は、空疎くうそに、鈍々どんどんとした歩調で、御霊廟の裏へ曲がって行く。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして彼自身はまた、やがて場末の辻から繁華な大通りのほうへ鈍々どんどんとして歩きだしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、こういう妻には、こういう良人が、よく配偶されているように、強右衛門は、世俗でいう「気ばたらき」の至ってない、鈍々どんどんとして、ただ真正直が取柄だといわれるような性格だった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)