醜陋しゅうろう)” の例文
後者の実例は場末の玩具屋おもちゃやの店頭で見られる安絵本のポンチなどがそれである。そこには尊い真は失われて残るものは虚偽と醜陋しゅうろうな悪趣味だけである。
漫画と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
殊に例の折助社会に至っては、こんなことは待っていましたという程に喜ばしい出来事で、あらゆる醜陋しゅうろうと下劣の言葉で、皮肉と嘲弄の材料にしていました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どのような愚劣醜陋しゅうろうな事柄でも、崇高な事物と同様に、存在の権利を有ち、何らの醜い酬をも受けずに、美しいものと少しも変りなく、その存在を終えて行くことに
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
維新以後外国人の浮世絵研究さかんなるに及びても写楽はなほ重んぜられず日本美術研究の開拓者と称せられし米人フェノロサの如きも写楽の俳優肖像画を以て醜陋しゅうろうなりとなしき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしてやわらかいパンヤの蒲団ふとんのなかに独り体をうずめていると、疲れた頭脳も落ち着くのだし、衰えた神経の安めにもなるのであったが、彼にはこの醜陋しゅうろうな情痴の世界をこえて
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何らの糊塗こともなく、醜陋しゅうろうもそのシャツをぬぎ、まったくの裸となり、幻や蜃気楼しんきろうは崩壊し、用を終えしもののすごい顔つきをしながら、もはやただあるがままの姿をしか保たない。
さればこの時諸大衆今日この山頂に人頭の小虫醜陋しゅうろうなるが僧服を著て世尊を礼拝するは珍なものだと嘲ると、弥勒世尊一同に向い、孔雀好色あれど鷹、鶻鷂こつように食われ、白象無量の力あるを
鷹揚おうような彼の一諾は、今夜ここに落ち合った不調和な三人の会合に、少くとも形式上体裁ていさいの好い結末をつけるのに充分であった。彼は醜陋しゅうろうに見える自分の退却を避けるために眼前の機会を捕えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「恥じろ、その醜陋しゅうろうな自分の本心を」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或時は日比谷街頭に醜陋しゅうろうなる官吏の銅像を仰いでその功績を説かざるべからず。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
よりによって最も醜陋しゅうろう宮刑きゅうけいにあおうとは! 迂闊うかつといえば迂闊だが
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)