)” の例文
そして人々にへられたところで、床の間にあつた日本刀を持出して、抜きかけようとさへした。本統にそんな事のできる自分だとは思へなかつた。
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
力なき日はいつしか光り薄れて時雨空の雲の往来ゆきき定めなく、後山こうざん晴るゝと見れば前山忽まちに曇り、嵐にられ霧にへられて、九折つゞらなるそばを伝ひ、過ぎ来し方さへ失ふ頃
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
川上忠一はうるさげにそれを途中でえぎると、たたきつけるようにがなった。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
寞々ばくばくとした雲棚引き、東のはてにただ一つ糠星ぬかぼしまたたいているばかり、四方あたり囲繞とりまく峨々たる山は、闇をしのいで黒くそびえ嵐に吹かれて唸りをあげ、山裾を流れる大河の水は岩にかれて叫んでいる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)