ふさわ)” の例文
夏の夜にふさわしい薄青い服を着て、ソファにりながら、不安な動揺にみちた瞳を輝かしながら市街に起る雑多な物音に脅えていた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
○帽子は既に述べしが如く洋服の形に従つておのおの戴くべきものあり。背広に鳥打帽を冠るはふさわしからず。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼のくちびるの辺には、すさまじい程の冷たい表情が浮んでいた。が、それにもかかわらず、声と動作とは、恋に狂うた男にふさわしい熱情を、持っている。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
長さ三尺にも足りない小さい机と、それにふさわしい本箱、二重ふたかさねの小さい箪笥たんす、ただ女らしい彼女の身だしなみを見せて、部屋はキチンと整っていて、ちり一つ散っていない。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
母屋おもやからは一段と、河原の中に突出ている離座敷には、人の気勢けはいもなかった。ただほんのりとともっている、絹行燈きぬあんどんの光の裡に、美しい調度などが、春の夜にふさわしいなまめいた静けさを保っていた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)