ゆづ)” の例文
大島敏夫おおしまとしを これは小学時代の友だちなり。僕も小学時代には頭の大いなる少年なりしも、大島の頭の大いなるには一歩も二歩もゆづりしを記憶す。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人は往々彼女を以て婦人の力のよく男子にゆづらざるの例とすれども、静かに思へ、人の信念の力や実にかくの如し。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宮もかつて己に対して、かの娘にゆづるまじき誠をいだかざるにしもあらざりき。彼にして金剛石ダイアモンドの光を見ざりしならば、また吾をも刑余に慕ひて、その誠をまつたうしたらんや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
明日あすの祭はことに尊きものゝ如く思はれぬ。我喜は兒童の喜にゆづらざりき。横街といふ横街には「コンフエツチイ」のたま賣る浮鋪とこみせのきを列べて、その卓の上には美しき貨物しろものを盛り上げたり。
哲学の盛んだつた摩伽陀国まかだこくの王子はクリストよりも奇蹟を行はなかつた。それはクリストの罪よりもむしろユダヤの罪である。彼はロオマの詩人たちにもゆづらない第一流のジヤアナリストだつた。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのわざとらしさは彼にもゆづらじとばかり、満枝は笑ひはやせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かう云ふ画趣を表現することは蕪村さへ数歩をゆづらなければならぬ。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)