遅鈍ちどん)” の例文
旧字:遲鈍
静かであるだけ、いかにも鈍い、薄暗い。ああ、恋の満足家庭の幸福というものは、かくまで人間を遅鈍ちどんにするものだろうか。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小田原の北条家から彼へこう訊ねて来たのが、十一日のことだったとあるほどゆえ、以ていかに関東方面の報道は遅鈍ちどんなものだったかがわかる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから『惑』という鈍い、重々しい苦悩くるしみから脱れるには矢張やはり、自滅という遅鈍ちどんな方法しか策がないのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
兄さんをかみに述べたように頭の中へ畳み込んだが最後、いかに遅鈍ちどんな私だって、御相手はできにくい訳です。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一片ひとひらは北に向って、一片は東に向って、見る間に、それらが影も形もなくなってしまう。その果敢はかない煙の姿を上に映して、遅鈍ちどんなブリキ屋根は、悲しみもしなければ、憂えもしないようだ。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
余りの犠牲に、佐久間勢のうちの一部将が、きぬくような声で叫んでいた。——が、それにしても、多数の行動を変じるにも自然、遅鈍ちどんならざるを得ないのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂布が、そのひじを打ったので、董卓は、奪った戟を取り落してしまった。彼は、肥満しているので、身をかがめて拾い取るのも、遅鈍ちどんであった。——その間に、呂布はもう五十歩も先へ逃げていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)