退潮ひきしお)” の例文
しんとしてさびしい磯の退潮ひきしおあとが日にひかって、小さな波が水際みぎわをもてあそんでいるらしく長いすじ白刃しらはのように光っては消えている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
退潮ひきしおで底がぐうっと洗い流されてるんだよ。」と彼は言った。「で、この水路はまあ言わば鋤で掘り出されてるようなものなのさ。」
「むりに漕ぎ入れるには及ばぬぞ。岩に舟底を噛まれるといけない。——潮は、やがてそろそろ退潮ひきしおともなるし」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とても此処じゃアしねねえから吾妻橋から飛込むから、今は退潮ひきしお上汐あげしおか知らないが、潮に逆らっても吾妻橋まで来て待ってくんな、勘忍してくんな、死におくれたから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
というのは、退潮ひきしおのために、簇生している樹々の下に、狭い砂地が帯のようにすでに現れていたからである。快艇はもはや恐れるには及ばなかった。
御最後川の岸辺に茂るあしの枯れて、吹く潮風に騒ぐ、その根かたには夜半よわ満汐みちしおに人知れず結びし氷、朝の退潮ひきしおに破られて残り、ひねもす解けもえせず、夕闇に白き線をぎわに引く。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
船は退潮ひきしおにつれてぐるりと𢌞っていて、——船首が今私の方へ向いており、——船中の唯一の灯は船室にあったのだ。
田畑ある島と知れけりあげ雲雀、これは僕の老父おやじの句であるが、山のむこうには人家があるに相違ないと僕は思うた。と見るうち退潮ひきしおあとの日にひかっているところに一人の人がいるのが目についた。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)