車前草おおばこ)” の例文
車前草おおばこの間を蟻が右往左往しているのが眼の中に閃めきながら身体は右へ左へと転んだ。そのたびに彼はひじで縁板を弾ねて起上った。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
春さきになると、まず壺すみれが日南ひなたに咲いた。それからクローバー、車前草おおばこあかざなどがほしいままに繁った。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
蚊帳釣草かやつりぐさ」の穂の練絹ねりぎぬの如くに細く美しき、「猫じゃらし」の穂の毛よりも柔き、さては「あかまま」の花の暖そうに薄赤き、「車前草おおばこ」の花のさわやか蒼白あおじろ
かつて巣鴨病院の患者の具合を見ていると、紙を巻いて煙草のようなつもりになって喫んでいるのもあり、煙管きせるを持っているものは、車前草おおばこなどをしてそれをつめて喫むものもいる。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「や、車前草おおばこだ。素敵素敵。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
青山あおやま兵営の裏手より千駄せんだくだる道のほとりにも露草つゆくさ車前草おおばこなぞと打交うちまじりて多く生ず。きたりてよく土を洗ひ茎もろともにほどよくきざみて影干かげぼしにするなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
市中しちゅうの散歩に際して丁度前章に述べた路地と同じような興味を感ぜしむるものがう一つある。それは閑地あきちである。市中繁華なる街路の間に夕顔昼顔ひるがお露草車前草おおばこなぞいう雑草の花を見る閑地である。