あせ)” の例文
かく言捨てて蒲田は片手しておのれの帯を解かんとすれば、時計のひも生憎あやにくからまるを、あせりに躁りて引放さんとす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まわればまわられるものを、恐しさに度を失って、刺々とげとげの枝の中へ片足踏込ふんごんあせって藻掻もがいているところを、ヤッと一撃ひとうちに銃を叩落して、やたらづきに銃劔をグサと突刺つッさすと
十分に念を入れて描きたいと、あせればあせるほど其の筆は妙に固くなって、彼として相当の自信のあるような作物がどうしても出来あがらなかった。おれはほんとうの絵師ではない。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「宮!」とふるつて呼びしかど、あはれむべし、その声は苦きあへぎの如き者なりき。我と吾肉をくらはんと想ふばかりにあせれども、貫一は既に声を立つべき力をさへ失へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これもきずつけじと、貫一が胸は車輪のめぐるがごとくなれど、如何いかにせん、その身は内より不思議の力に緊縛きんばくせられたるやうにて、はやれど、あせれど、寸分の微揺ゆるぎを得ず、せめては声を立てんと為れば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)