蹴合けあ)” の例文
物好きな傍聴人が、軍鶏しやも蹴合けあひを見るやうな気持で会場へぎつしりつまると、高木氏は例の尾崎氏の吹込蓄音機と一緒に演壇へぬつと出て来る。
私の眼にも判る一大きさサイズ小さなゴブラン織りの宮廷靴が、蹴合けあいに勝って得意な時の鶏の足のような華奢きゃしゃな傲慢さで絨毯の毛波ケバを押しつけていた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「眼をつぶされたんでさ。蹴合けあいでね」親爺は顎でその方をしゃくった。「こんなのの肉は堅くて食えないね。昨夜無理矢理に買わされたんだが——」
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
いや、その検非違使庁けびいしのちょうのうちでも、おりおり、鶏の蹴合けあう叫びを聞くといううわさすらあるちまただった。
つまり軍鶏しゃも蹴合けあいなどと同じことで、一種の賭博に相違ありませんが、軍鶏はおもに下等の人間の行なうことで、蜘蛛はまず上品のほうになっていたのだそうでございます。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こちらでは、陽気なピロちゃんが、筏につかまったまま、絵の上手なトクさんと足で蹴合けあいをしている。詩人の芳衛さんが、ニコニコ笑いながら、上品な傍観者の態度をとる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これではまるで喧嘩をしに来たようなものであるが、そこへ行くと迷亭はやはり迷亭でこの談判を面白そうに聞いている。鉄枴仙人てっかいせんにん軍鶏しゃも蹴合けあいを見るような顔をして平気で聞いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪煙ちらし蹴合けあへる組み雀ぱぱと立ちたり庇まで来て (二二九頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つづいて、四回、五回、六回と、蹴合けあいは相変らず互角に進んだ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「日本人の柔道じゅうどうなんて、あれは小人の蹴合けあいみたいなものさ。ほんとに人がぽんぽん投げられるものか。まして、われわれアメリカ人のこの堂々たる重いからだが、ちッぽけなうでで投げられるはずがないよ。」
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「ふふむ、蹴合けあいか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)