つぐな)” の例文
人間の獣慾を惟一ゆゐいつの目的として描出するのいひにあらず、人間に不完全の認識あるよりして、何物かを得て之をつぐなはんとの慾望は天地間自然の理なれば
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その罪のつぐないをする間はせわしくてこの世を顧みる暇がなかったのだが、おまえが非常に不幸で、悲しんでいるのを見ると堪えられなくて、海の中を来たり
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こんどこそは私のしたことのすべてをつぐなうつもりで、自分の最後の日の近づいてくるのをひたすら待ちながら
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
部落の老若ろうにゃくはことごとく、おきて通り彼を殺して、騒動の罪をつぐなわせようとした。が、思兼尊おもいかねのみこと手力雄尊たぢからおのみことと、この二人の勢力家だけは、容易に賛同の意を示さなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
当初はじめ貴様に棄てられた為に、かう云ふ堕落をした貫一ならば、貴様の悔悟と共に俺もすみやかに心をあらためて、人たるの道に負ふところのこの罪をつぐなはなけりや成らん訳だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
のち永楽七年に至りて自殺す。安等をうしないてより、南軍おおいに衰う。黄子澄こうしちょう霊壁れいへきの敗を聞き、胸をして大慟たいどうして曰く、大事去る、吾輩わがはい万死、国を誤るの罪をつぐなうに足らずと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は生涯その罪のつぐないをして来ました。こうして老嬢をとおしております。いいえ、老嬢と云うよりも、婚約をしたッきりの寡婦、あの少年の寡婦として通して来たと申したほうが好いのでしょう。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
平次がお臺所町の富崎佐太郎浪宅を訪ね、——親の敵——といきり立つ佐太郎をなだめて訊くと、金森家へ三千兩の小判を返し、佐太郎の父親の罪をつぐなつたのは、全く佐太郎の知らぬことと判りました。
私はこうして一度は焼いてしまおうと決心しかけた此の手帳を再び自分の前にひらいて、こんどこそは私のしたことのすべてをつぐなうつもりで、自分の最後の日の近づいてくるのをひたすら待ちながら
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)