豊艶ほうえん)” の例文
清長の描ける風俗画の美人は古今の浮世絵を通じてその容貌姿勢最も健全豊艶ほうえんにして四肢の比例最も美しく自然なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
マダムは二十七、八の美人で芸者あがりだから世帯しょたいじみたところがなく、濃厚な色気そのもの、豊艶ほうえんで色ッぽい。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
葉子はハンドバックに日傘ひがさという気軽さで、淡い褐色がかった飛絣とびがすりのお召を着ていたが、それがこのごろ小肥こぶとりのして来た肉体を一層豊艶ほうえんに見せていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある華々はなばなしい話し手が、豊艶ほうえんな恋愛の詩人が、シャートレー座で贖罪について講演をしていた。
彼の眼に映ツた豊艶ほうえんな花は少しづつ滲染しみが出て來るやうに思はれるのであツた。おふくろは迂散うさんらしい顏で、しげ/″\周三の顏をみつめてゐた。間も無くお房は銭の音をちやらつかせる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかも閉じたそのまなこ、軽く結んだ豊艶ほうえんな唇のあたり、熱帯の灼熱せる太陽に蒸されてすでに紫斑を呈しながらも生前の美しさがしのばれて今にも楚々そそとして微笑ほほえみ出すかと疑われんばかりの姿であった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
豊艶ほうえんな女をばいつの時代にも当世風とするならば小半も勿論もちろんその型の中に入れべきものである。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)