誤謬ごびう)” の例文
又罪過は戯曲のみにあるべきものにして決して小説にあるべからずと言ふ者あらば、吾人は別論としてほ其誤謬ごびうばくせんと欲するなり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
しかしわたくしは伊澤の刀自や師岡の未亡人の如き長壽の人を識ることを得て、幾分か諸書の誤謬ごびうを正すことを得たのを喜んだ。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
事業の全躰を以て文章なりとはゞ固より誤謬ごびうなるべし。然れども文章世と相わたらずんば言ふに足らざるなり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
男女とも尻つ尾さへぶら下げてゐなければ、一人前の人間だと考へるのは三千年来の誤謬ごびうである。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
愈々いよ/\現在立国の基本社会組織の根底に疑ふべからざるの誤謬ごびうあることを正確に証明せり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
夫子ふうしあながちにしかき道義的誤謬ごびうの見解を下したるは、大早計にも婦人を以て直ちに内政に参し家計を調ずる細君と臆断おくだんしたるに因るなり。婦人と細君と同じからむや、けだし其あひだに大差あらむ。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
不可能に対しては如何なる誤謬ごびうも誤訳も顧るに足らないのである。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
是れも古びが着いて一つの歴史的のものになれば、誤謬ごびうから生じた詞でも認めんければならぬのでありますけれども、それを急いで認めることはどうも宜しくないかと思ひます。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
これは中村君のみならず、しばしば識者の口から出た、山嶽よりも古い誤謬ごびうである。古往今来こわうこんらい社会的環境などは一度も清閑を容易にしたことはない。二十世紀の中村君は自動車の音を気にしてゐる。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)