ねらい)” の例文
今までにどこか罪な想像をたくましくしたというましさもあり、まためんと向ってすぐとは云いにくい皮肉なねらいを付けた自覚もあるので
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
スミス中尉は、たまりかねてか、ピストルを右手にもちなおすと、杉田の背後めがけてねらいをさだめた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吾輩が驚ろいて、からだの泥を払っているに黒は垣根をくぐって、どこかへ姿を隠した。大方西川のぎゅうねらいに行ったものであろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細君は覚束おぼつかなげに鋏を取りあげて、例の蠅の眼玉の所へ自分の眼玉を付けてしきりにねらいをつけている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「本当に殺されるのか」とは、自分の耳を信用しかねた彼が、かたわらに立つ同囚どうしゅうに問うた言葉である。……白い手帛ハンケチを合図に振った。兵士はねらいを定めた銃口つつぐちを下に伏せた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死ぬために飛び込んだのである。彼らの足が壕底ごうていに着くやいな穹窖きゅうこうよりねらいを定めて打ち出す機関砲は、つえを引いて竹垣の側面を走らす時の音がしてまたたに彼らを射殺した。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すきがあったら飛び込もうとして、この間からねらいを付けていた彼は、何時まで待っても際限がないとでも思ったものか、機会のあるなしに頓着とんじゃくなく、ついに健三に肉薄にくはくし始めた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
険呑けんのんだと八合目あたりから下を見てねらいをつける。暗くて何もよく見えぬ。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明るいうちから、あの毛布けっと、あの毛布と御題目おだいもくのように見詰めてねらいをつけて来たせいで、日が暮れて、突然の眼には毛布だか何だか分らないところを、自分だけにはちゃんと赤毛布に見えるんだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)