ちぬ)” の例文
また別に『宝刀未だちぬらず洋夷の血』とか『三たび死を決して而も死せず』とか、なかなかいうことは壮烈だけれども結局は云うばかりだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正直者の虎之助は、二言なく、顔をあかめていた。脇坂甚内も、すでに槍の穂をちぬり、敵の一首級は腰にくくっていたのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼としては、もはや、人間にせよ、畜類にせよ、およそ生きとし生けるものの、その一つをでさえも、これより以上に刃にちぬらせたくはないのだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
難をしのぎ危をおかし、あえて寸鉄にちぬらずしてもって今日の場合にいたりたるは、ただに強勇というべきのみに非ず、これを評して智と称せざるべからず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「小説の刃はちぬられなければならない」と、芸術の光背を負うて陸離たるが如くあった室生犀星氏が
「今少しく兵を起したでは敵を滅ぼすことは出来ない。さりとて多く兵を動かせばこれ百姓の害である。なるべく兵刃へいじんちぬらずして、ながらにして目的を達したい」
彼のいだいていった薄刃うすばの短刀に血をちぬらず、あの重い砲丸を投げつけて目的を達したことは、のちに捕縛されたとしても、短刀をまだ使っていないという点で、犯行を否定するつもりだったという。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドタドタドタという足音が、嵐のようにくずれ去る、御方はちぬられた小太刀を振って一散に追いかけ斬りかけて行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、信長の本塁ほんるい天野山あまのやまにおかれた。こう壮観な布陣を展開しながら、彼はなお、ちぬらずして叛軍はんぐんを降すことに、一縷いちるの望みをつないでいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、ここにあるただ一つの策は、友の半兵衛からよく利害を説いて、ちぬらずして彼を降伏させるしかない。しかし、彼もさる者、寄手の弱点は、充分見ぬいている。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喊声かんせいをあげながら、怒濤の兵は関門へ突入した。ほとんど、ちぬらずに、涪水関は占領された。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の血液はやはり魏刀ぎとうちぬられるものに初めから約束されていたようである。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをまずちぬらずに抜こうと苦心していたのであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちぬらずして国土の難を救うことができましょう。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)