蚊屋かや)” の例文
暫くはなしを聞いているうちに、飾磨屋さんがいなくなったので聞いて見ると、太郎を連れて二階へ上がって、蚊屋かやらせて寐たと云うじゃありませんか。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その晩、岸本はまだ旅から帰りたての客のような形で、兄の義雄と同じ蚊屋かやの内に寝た。高輪たかなわにあるこの新開の町ではもう一月も前から蚊屋をるという。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高品さん夫妻にさえ話さず、売り残って半ば不用の本の詰った四つの本箱や、机や、やぶれ蒲団ぶとんや穴だらけの蚊屋かや。よごれたまま押入へ突込んである下衣したぎや足袋類。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高く釣った蚊屋かやの中にしょんぼり坐っているのは年とった主婦で、乱れた髪に鉢巻をして重い病苦に悩むらしい。亭主はその傍に坐って背でも撫でているけはいである。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
○山中ゆゑなし、蚊屋かやを見たるものまれ也。
氷峰と義雄とのは編輯室の方に同じ蚊屋かやだ。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
出るときお蝶は蚊屋かやを畳み掛けていた。三十分も歩いたと思って帰って見ると、お蝶は畳んだ蚊屋を前に置いて、目はくうを見てぼんやりしてすわっていた。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
法律上の解釈は自分等の離縁を認めるであろうか。それも覚束おぼつかなかった。三吉はある町に住む弁護士の智慧ちえを借りようかとまで迷った。蚊屋かやの内へ入って考えた。夏の夜は短かかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつも子供が寝ると、自分も一しょに横になっているのが、その晩は据わって俯向うつむき加減になっていて、末造が蚊屋かやの中に這入って来たのを知っていながら、振り向いても見ない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして団扇うちわを一本持って蚊屋かやの中へ這入はいって据わった。その時けさみちで逢った、あの女の所に、今時分夫が往っているだろうと云うことが、今更のようにはっきりと想像せられた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
そろそろ蚊屋かやらなくちゃあ、かかあはいが、子供が食われるだろう
(新字新仮名) / 森鴎外(著)