藤袴ふじばかま)” の例文
微禄の旗本屋敷の塀の、崩れた裾などに藤袴ふじばかまの花が、水引きの紅をひいて、空色に立っている姿などは、憐れみ深いものである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分ながら嫌気のするような容貌かおつきをもう一度映しなおして見た、岸に咲きみだれた藤袴ふじばかまの花が、私の影にそうて優しい姿を水に投げている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
秋の野のだれのでもない藤袴ふじばかまはこの人が通ればもとの香が隠れてなつかしい香に変わるのであった。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いたいけな藤袴ふじばかまが、それに押しつぶされ、かよわい女郎花おみなえしが、危なくそれを避けています。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すすき蓬々ほうほうたるあれば萩の道に溢れんとする、さては芙蓉ふようの白き紅なる、紫苑しおん女郎花おみなえし藤袴ふじばかま釣鐘花つりがねばな、虎の尾、鶏頭、鳳仙花ほうせんか水引みずひきの花さま/″\に咲き乱れて、みちその間に通じ
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女郎花おみなえしやら藤袴ふじばかまやらに一本一本それを立てえて縛っていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
枯れ果てしものの中なる藤袴ふじばかま
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
藤袴ふじばかま吾亦紅われもこうなど名にめでて
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)