蓊鬱こんもり)” の例文
眼もあやな芝生の向うには、したたらんばかりの緑の林が蓊鬱こんもりと縁どって、まるで西洋の絵でもながめているような景色でした。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
眼に見えるようなは其而已そればかりでなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端ではずれ蓊鬱こんもり生茂はえしげった山査子さんざしの中に、るわい、敵が。大きな食肥くらいふとッた奴であった。
寺を圍んで蓊鬱こんもりとした杉の木立の上には、姫神山が金字塔ピラミットの樣に見える。午後の日射は青田の稻のそよぎを生々照して、有るか無きかの初夏の風が心地よく窓に入る。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
島を越して向側むかふがはの突き当りが蓊鬱こんもりとどすぐろひかつてゐる。女はおかうへから其くら木蔭こかげを指した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あの蓊鬱こんもりした森のなかにある白壁の幾棟いくむねかの母屋おもやや土蔵も目に浮かんだりして、ああいった人たちはやはりああいった大家でなくては縁組もできないものなのかと、考えたりもした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
叢道くさむらみちの両側は、見上げるような山ばかりで、蓊鬱こんもりとした杉の木ばかり、そびえています。二時間歩いていても、三時間歩いても、人っ子一人行きわないさびしさです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
はるかの下方に見えるぶなとちの大木の、一際蓊鬱こんもりした木陰、そこで道は二つに分れています。一つは東水の尾へ下って行く道……すなわち、私が昨日登って来て、その下の方で一休みしたところです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)