草径くさみち)” の例文
こけに惑い、露にすべって、樹島がややあわただしかったのは、余り身軽に和尚どのが、すぐに先へ立って出られたので、十八九年不沙汰ぶさたした、塔婆の中の草径くさみちを、志す石碑に迷ったからであった。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひぢを曲げて一睡をむさぼると思ふに、夕陽すで西山せいざんに傾むきたれば、晩蝉ばんせんの声に別れてこの桃源を出で、元の山路にらで他の草径くさみちをたどり、我幻境にかへりけり、この時弦月漸く明らかに
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
十六歳の夏、兄と阿蘇あその温泉に行く時、近道をして三里余も畑のくろ草径くさみちを通った。吾儘わがままな兄は蛇払へびはらいとして彼に先導せんどうの役を命じた。其頃は蛇より兄が尚こわかったので、ず/\五六歩先に立った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)