茶椀ちゃわん)” の例文
私は朝飯あさめしとも午飯ひるめしとも片付かない茶椀ちゃわんを手に持ったまま、どんな風に問題を切り出したものだろうかと、そればかりに屈托くったくしていたから
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶椀ちゃわんからはしまで自分々々の布巾ふきんで綺麗に拭くことも——すべて、この炉辺の光景さまは達雄の正座に着いた頃と変らなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
裏口からのぞいて見ますと、兵十は、午飯ひるめしをたべかけて、茶椀ちゃわんをもったまま、ぼんやりと考えこんでいました。へんなことには兵十のほっぺたに、かすり傷がついています。
ごん狐 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その的というのは、白い紙の上に、水珠みずたまを寄せたように、茶椀ちゃわんほどの大きさの、青だの、赤だの、黄だのまるが、べた一面に描いてあって、その上に5とか3とかいう点数が記してあった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
校長は又私の茶椀ちゃわんに紅茶をついで云いました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ついでにお茶椀ちゃわんも洗って来ましょうね」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「あの子についちゃ実にかわいそうな話があるんでね。私はお隅さんを見ると、罅痕ひびたけの入った茶椀ちゃわんを思出さずにいられやせんのさ。まあ聞いてくれ給え」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人はかわるがわるだまって茶椀ちゃわんえた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
伯母は二人に麦香煎むぎこがし宛行あてがった。お房は附木つけぎで甘そうにめたが妹の方はどうかすると茶椀ちゃわんかしげた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相変らず子供は母の言うことを聞かないで、茶椀ちゃわんを引取るやら、香の物をつかむやら、自分ではしを添えて食うと言って、それを宛行あてがわなければ割れる様な声を出して泣いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんでもお房は自分で茶椀ちゃわんを持って飲まなければ承知しなかった。しまいには泣いておどした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)