芒原すすきはら)” の例文
引越した当時は、私の家の裏手はまだ一めんの芒原すすきはらになっていて、大きなみぞを隔てて、すぐその向うが華族のお屋敷になっていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「まだ日のあるうちで仕合わせじゃ。暮れてから芒原すすきはらであのような美しい女子に出逢うたら、狐が化けたのじゃと思わるるかも知れぬ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこへ、切った犬の数よりも、はるかに多い野犬の群れが、あるいは芒原すすきはらの向こうから、あるいは築土ついじのこわれをぬけて、続々として、つどって来る。——
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「もうよかろう」と心でいって、四辺あたりひそかに見廻した時には、追分宿は山に隠れ、ともしび一つ見えなかった。おおかた二里は離れたであろう。左は茫々たる芒原すすきはら
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼らの一行が測量の途次茫々ぼうぼうたる芒原すすきはらの中で、突然おもても向けられないほどの風に出会った時、彼らはばいになって、つい近所の密林の中へ逃げ込んだところが
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その晩、相手の男と別れてから、王四は途中の芒原すすきはらで寝てしまった。事これだけなら、その一すいは無上天国そのものだった。ところが折ふし通りかかった猟人かりゅうどがある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
運転手のなかが見えた。それから彼は透明な窓硝子まどガラスに顔を持って行った。窓の外はもうすっかり穂を出している芒原すすきはらだった。ちょうど一台の自動車がすれちがって行った。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は或大学生と芒原すすきはらの中を歩いてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)