船弁慶ふなべんけい)” の例文
「そら謡曲の船弁慶ふなべんけいにもあるだろう。——かようにそうろうものは、西塔さいとうかたわら住居すまいする武蔵坊弁慶にて候——弁慶は西塔におったのだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が得意の「有職鎌倉山ゆうそくかまくらやま」を出し、中幕は団十郎の「白髪染しらがぞめ実盛さねもり」と「船弁慶ふなべんけい」であったが、一番目ではやはり左団次の三浦荒次郎みうらあらじろうがわたしの眼についた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長唄がおわってから、主客打交っての能があって、女芸人らは陪観を許された。津軽侯は「船弁慶ふなべんけい」を舞った。勝久を細川家に介致かいちした勝秀は、今は亡人なきひとである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただ「船弁慶ふなべんけい」で知盛とももりの幽霊が登場し、それがきらきらする薙刀なぎなたを持って、くるくる回りながら進んだり退いたりしたその凄惨せいさんに美しい姿だけが明瞭めいりょうに印象に残っている。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中幕は「義経記ぎけいき」一幕、これは羽左衛門改名の出しもので、かの「船弁慶ふなべんけい」であるが、船弁慶という名題なだいでは羽左衛門の出し物にならないというので、特に「義経記」と改題したものらしく
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)