脂切あぶらぎ)” の例文
その父の背中は真白くてヌルヌルと脂切あぶらぎっていた。その左の肩に一ツと、右の背筋の横へ二ツ並んで、小さな無果花いちじく色のいぼが在った。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
年の頃は五十前後、充分に脂切あぶらぎつて、ギラギラする袷や、銀鎖ぎんぐさりの逞ましい煙草入や、身の廻りの物一つ/\にも、馬鹿々々しい見得があふれて居ります。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ここが一生の運命のわかれ目と思い込んでいるらしい真剣味をもって、今一層グッと身を乗出しながら、男盛りの脂切あぶらぎった顔を光らした。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
石井依右衛門は気が多くて脂切あぶらぎって居るから、良い年増のお新に、チョッカイ位出して居るかもわからず、一方新造のお通は、尼返りで若くて綺麗で、気が弱そうで
如何にも研究熱の旺盛な余りに出たらしい脂切あぶらぎった口調で、柔らかく、固くもちかけて来たもんだから吾輩ウッカリ乗せられてしまった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四十そこ/\、まだ用人摺れのする年ではありませんが、主人大村兵庫の脂切あぶらぎつたのと違つて、ひどく氣の弱さうな菊内は、御用聞風情の前に揉手もみでをして居るのでした。
妾はそう云いながらハラムのくびをヤケにゆすぶった。逞ましい脂切あぶらぎった筋肉に、爪を掘り立てるくらいキツクゆすぶった。けれどもハラムはビクともしなかった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一番惡いのはあの軍學者の山カン野郎さ。天文も治國平天下も無えものだ。脂切あぶらぎつたお妾が、三階から逆樣にブラ下つて、當分は講中も寄り付かなくなるだらう。あんなのは駄菓子屋でも始めて、女房孝行を
この財産と共に、叔父の肉体も亦、いよいよ丸々と脂切あぶらぎって、陽気な色彩を放って来た。その頭はますます禿げ上った。叔父はそれを撫で上げ撫で上げ人と話した。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白い脂切あぶらぎった腕を肩までマクリ上げると、黄色い声で相手構わず愛嬌を振り撒きはじめた。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして寝台の上に長くなっているヤングの脂切あぶらぎった大きな背中を、小さなかわの鞭で
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小謡いがまだ二三番と済まぬうちに脂切あぶらぎった腕を首にさし廻わされた時なぞ、血相をかえて塩鰯をひねくりまわし、後退あとしざりして逃げて来るという、世にも身固い、涙ぐましい月日が
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その脂切あぶらぎった笑い顔を見ると、私はホッと救われたような気持ちになって、バットを三個みっつばかり受け取ったが、とりあえず一本引き出して吸口をつけながら、こころみに聞いて見た。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
●女中の手……真黒く、丸々と脂切あぶらぎった……。