老母としより)” の例文
お通は、この老母としよりが息子の又八を盲愛する余り、ここへ来てもひどいことばをいいちらしたのみで、お吟が可哀そうでならなかった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子息むすこは茶のの火鉢のところに坐って、老母としよりと茶を呑んでいた。で肩の男の後姿が、上り口の障子の腰硝子から覗くお庄の目についた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは老母としよりの身体で、朝起きて見れば、遠い井戸から、雨が降ろうが何うしょうが、水も手桶に一杯は汲んで、ちゃんと縁側に置いてあった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今日は老母としよりの耳にも這入って、捨てゝは置かれず、わしが附いて居て名主様に済まない、ことうちの物を洗いざらい持出して質に置き、水街道の方で遊んで、うちへ帰らずに
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
種紙たねがみといふものは中々つくれないのだし、第一桑の葉がなければ、蠶のおまんまがないと、老母としよりがきかせてくれたので、穴があいて、蟲が飛出してしまつた繭を、うらめしく
桑摘み (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
やさしい老母としよりから孫あつかいにされると、武蔵は、童心をよび起されて、ことばづかいまでおのずと子供らしくなってしまう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どんなにお乳がおいしいもんだか。」と、老母としよりは相好を崩して、子供の顔をのぞき込んだ。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それが仇敵がそうしている為に、娘を傍に置くことが出来ないばかりではない、自分で仇敵に朝晩の世話までしてやらなければならぬ。老母としよりに取っては、それほどさかさまなことはない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
百五十円の月手当は老母としよりの小遣いには、多いからとて少なくはない。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お米の母で、店から何まで切り廻している老母としよりである。小さなうつわへ、何か赤い液をたたえた物を持ってそろそろと入ってきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょうことなしに老母としよりの懐に慣らされて来た子供は、夜は空乳からちちを吸わせられて眠ったが、朝になると、せなかに結びつけられて、老母のきつける火のちろちろ燃えて来るのを眺めていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「えらい老母としよりだ、見上げたもの。中堂の僧も皆、同情していた。わしも屹度きっと、助太刀しようと、力づけて別れた」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本位田ほんいでん家の隠居は、きかない気性の老母としよりだった、又八のおふくろに当る人だ、もう六十ぢかいが、若い者や小作の先に立って野良仕事に出かけ、畑も打てば、麦も踏む
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「出すときかないぞ。——これ又八、貴様武蔵とそうなるならば、一応、おふくろに会って、よく得心させてゆけ。おそらくあの老母としよりは、そんな屈辱に、合点はすまい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの老母としよりに何と詫びようかなどと、外にたたずんだまま、姉のすがたを戸の隙間からのぞき見して惑っているうちに、張り込んでいた姫路城の武士さむらいたちに見つかってしまい
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『お! いつか立ち寄った時、蕎麦そばを打って食わせてくれたあの老母としよりか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、背中の老母としよりにしてみたらどうだろうか?
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)