翫味がんみ)” の例文
蕪村は読書を好み和漢の書何くれとなくあさりしも字句の間には眼もとめず、ただ大体の趣味を翫味がんみして満足したりしがごとし。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
真にいまだ先覚者の説を翫味がんみせずしてこれを誤解敷衍ふえんするあり、あるいはその反対の人あえて主唱者の意を酙酌しんしゃくせずしてこれを誤解弁駁するあり
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
微細な感受性の働きを要求する一流の芸術だとか、一流の料理だとかを翫味がんみするのが、不可能になっていた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
他人の云ふことを一々頭の中で翫味がんみしたりしてゐる人なんかはまあないといつてもいゝ位だと私は思ふ。
感想の断片 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
我らは発句を習熟することが文章上達の捷径しょうけいなりと知り、その後やや心をとめて翫味がんみするようになった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
マルクス同様資本王国の建設に成る大学でも卒業した階級の人々が翫味がんみして自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も著しいものだ。
宣言一つ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
同様に困るのはかの無学者——他日充分の準備教育を施したあかつきには、われ等の唱道する所を、咀嚼そしゃく翫味がんみするに至るであろうが、当分まだわれ等の仕事とは没交渉である。
研究も翫味がんみもしつくされていて、今は不言実行の時代に入っているんだよ——まあ早く言えば、いろいろの意味で子を産みたくないという奴が、世間にはうんといるのさ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
耳と心にのこり、面白く翫味がんみしています。この言葉の内に含蓄されているものはなかなか一通りではなくてね。人間芸術家としての成長の真のモメントはここにあると思います。
能の曲の内容をよくよく翫味がんみしてみると、実に雑然として混沌たるものがある。乞食歌もあれば、お経文もある。純日本式の思想もあれば、支那、印度の思想も取り入れられている。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
居付の鯛の、練絹のような豊満な肉の質に比べれば、翫味がんみの舌に区別が湧く。
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
熟読翫味がんみしてます/\味わいのこまやかなるは君の文学の特色なり。
弔辞(徳田秋声) (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
また瘋癲病ふうてんびょう者の文章をさほど心労して翫味がんみしたかと思うと恥ずかしくもあり、最後に狂人の作にこれほど感服する以上は自分も多少神経に異状がありはせぬかとの疑念もあるので、立腹と、慚愧ざんき
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある観念と覚悟とを与えた点にある……資本王国の大学でも卒業した階級の人々が翫味がんみして自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も苦しいものだ
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
蕪村は読書を好み和漢の書何くれとなくあさりしも字句の間には眼もとめず、ただ大体の趣味を翫味がんみして満足したりしが如し。俳句に古語古事を用ゐること、蕪村集の如く多きは他にその例を見ず。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)