羨望せんばう)” の例文
遠くのさわうた富貴ふうき羨望せんばう、生存の快楽、境遇きやうぐうの絶望、機会と運命、誘惑、殺人。波瀾はらんの上にも脚色きやくしよく波瀾はらんきはめて、つひに演劇の一幕ひとまくが終る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何ものにも影響されない、独得な女の生き方に、富岡は羨望せんばう嫉妬しつとに似た感情で、ゆき子の変貌へんばうした姿をみつめた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
濱町の貧しい父親の許に、暇乞いとまごひに來たお富は、近所の人達に包圍されて、暫くは、祝ひの言葉と、羨望せんばうの感動詞と、あらゆる目出度いものの渦の中にもみ拔かれました。
本郷通りなどで出逢であふ帝大生の群に対していだいた、ある弱々しい羨望せんばうをふと思ひ出したのだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「照さんは幸福ね。」——信子はあごを半襟に埋めながら、冗談のやうにかう云つた。が、自然と其処へ忍びこんだ、真面目な羨望せんばうの調子だけは、どうする事も出来なかつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
嗚呼ああ、この心憎き、羨望せんばうすべき時代錯誤よ。時代錯誤の麟鳳よ。永久に詩人的なるものよ。
嗚呼ああ、この心憎き、羨望せんばうすべき時代錯誤よ。時代錯誤の麟鳳よ。永久に詩人的なるものよ。
我が一九二二年:01 序 (新字旧仮名) / 生田長江(著)
芒原はいつか赤い穂の上にはつきりと噴火山をあらはし出した。彼はこの噴火山に何か羨望せんばうに近いものを感じた。しかしそれは彼自身にもなぜと云ふことはわからなかつた。……
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
言へ、南部家には立派な兵粮丸が傳はつて居る筈だ。數ある兵粮丸のうちでも、南部と水戸の兵粮丸は有名で、大小名方の羨望せんばうの的になつて居るのに、何を苦しんで古めかしい兵粮丸の分析を
が、奸妻かんさいに悩まされ、病肺びやうはいに苦しまされ、作者と俳優と劇場監督と三役みやくの繁務に追はれながら、しかもなほこの嘲魔の毒手に、陥らなかつたモリエエルは、いよいよ羨望せんばうに価すべき比類の少い幸福者である。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
僕はいつもかう云ふ人々に多少の羨望せんばうを感じてゐる。……