縦令たとへ)” の例文
旧字:縱令
縦令たとへば一個所や二個所で共産組織をしたところで、それは直ぐ又資本家に喰ひ入られて終ふか、又は私が寄附した土地をその人達が売つたりして
私有農場から共産農団へ (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
縦令たとへ旦那様だんなさま馴染なじみの女のおびに、百きんなげうたるゝともわたしおびに百五十きんをはずみたまはゞ、差引さしひき何のいとふ所もなき訳也わけなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
縦令たとへネワ河水にして、この南国動物の為めに寒冷なるに過ぎたりとせんも、帝都の区内池沼ちせうに乏しからず。市街にも又適当なる河川及び沼沢なきにあらず。
一寸でも擽られるやうな思ひに打たれると縦令たとへ厭々ながらであらうとも、さういふ癖の彼は、何とか皮肉な文句でも思案せずには居られないで——いや俺は
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
こゝからは見えない泉水のほとりで、縦令たとへ馬鹿ではあるにしろ年齢としだけは若い、身体だけは堂々と立派な勝彦が、瑠璃子と相並んで、打ち興じてゐる有様が、勝平の眼に
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
憫むべき鱷は斯の如き長大なる物を呑みたる為め頻に落涙しをれり。我国の古諺こげんに曰く。まねかざる客は韃靼人だつたんじんよりもまると。鱷は縦令たとへ落涙すとも、胃中の寄住者を如何いかんともする事能はざるなり。