紫蘭しらん)” の例文
そして、竹童はそのまえにつかれたからだをすえ、咲耶子はうちしおれて、紫蘭しらんのかおる黒髪くろかみを、あかい獣蝋じゅうろうのそばにうつむけていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて持主が誇った庭園はよもぎの山と化し、かやが風にゆらぎ、黄菊、紫蘭しらんなどの野草が僅かに秋の風情を伝えるばかり。草むらに鳴く虫の声も古き恨みを告げている。
窓外の春はたけなわであった。桜はなかば散ってはいたが、山吹の花は咲きはじめていた。紫蘭しらんの花が咲いている。矢車の花が咲いている。九輪草りんそうが咲いている。そこへ夕陽が射している。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金鳳花きんぽうげ、いらくさ、雛菊ひなぎく、それから紫蘭しらん、あの、紫蘭の花のことを、しもじもの者たちは、なんと呼んでいるか、オフィリヤは、ご存じかな? 顔を赤くしたところを見ると、ご存じのようですね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
紫蘭しらん咲いていささかあかき石のくま目に見えて涼し夏さりにけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
紫蘭しらん咲き満つ毎年の今日のこと
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
うしろ向き雀紫蘭しらんの蔭に居りややにし入る朝日の光
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)