紡車つむぎぐるま)” の例文
山の宿屋というものを、思わせる「糸屋」と看板を出した旅籠屋はたごやには、椽側に紡車つむぎぐるまを置きっ放しにして、ひっそりかんとしている、馬車はここで停まった。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
糸を紡ぐといったところで紡車つむぎぐるまがある訳じゃない。細い竹の棒の先に円い独楽こまのようなものが付いてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうです、この子が見ていたのは、母親の紡車つむぎぐるまだったのです。それは時計の真下に置いてありました。その紡車こそ、この子が家じゅうで一番好きなものだったのです。
その後二、三年、代用教員として、父の小学校を手伝い、十七歳で「紡車つむぎぐるまのグレートヒェン」を含む十七曲の歌曲リードを作った。後世にのこるシューベルトの遺産の最初のものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
すみのほうには、火ばさみと、木べらがあり、紡車つむぎぐるまは、腰かけの上にあがっています。窓の上の棚には、あさと、ふたかせの織糸おりいとと、ロウソクと、一たばのマッチがおいてあります。
だって、どう考えたって、紡車つむぎぐるまが独りでに廻るという道理はないだろう。それに、理由は後で云うが、艇長は或る奇異ふしぎな迷信から、自分が『鷹の城ハビヒツブルグ』を離れる時刻を決めているんだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
はずみのついた紡車つむぎぐるまのように止めようとしてもどうしても止まらないふうだった。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女工は其の握つた小さなヒーザアの掃木で湯の中の繭を攪きまはして順に糸の端を見出して取り上げる。そしてそれを廻つてゐる紡車つむぎぐるまの上に置く。すると機械の活動の下に絹糸はほぐれて行く。
年とった女の人たちは戸口とぐちにすわって、紡車つむぎぐるまをつかわずに、ただ一本の糸まき竿ざおで、糸をつむいでいました。商店しょうてんは、ちょうど露店ろてんのようなぐあいに、通りにむかって開いていました。
ですから、一日中母の眼を避けて、父は紡車つむぎぐるま獅噛しがみついていたのでしたわ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
クルージイと呼ばれて魚油を点す壁灯かべびや、長い鎖のついた分銅を垂している、古風な時計などが掛けられているのだから、もしそこに石炉や自在鉤や紡車つむぎぐるまが置かれてあったり、煤けた天井に
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)