素人しろと)” の例文
素人しろとにはむづかしいといふ、鰻釣の糸捌いとさばきは中でも得意で、一晩出掛けると、湿地で蚯蚓みみず穿るほど一かゞりにあげて来る。
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「をツさん、また詰まつてるな。素人しろとの煙草呑みはこれやさかいな。」と、俯いて紙捻こよりを拵へ、丁寧に煙管の掃除を始めた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
三月やそこらでは素人しろとに分れしませんし、それにその後で「自分は子供出来るはずない」いうことを、たしかに光子さん自身の口から聞いてますし
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おかみさんが素人しろとの女手でやつてゐられる小さい店だけれど、あたりにかういふものがないので、ちよい/\出前もあるし、お客さまもぼつ/\来て下さるので
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ところで、素人しろとっぽいことを訊くようだが、今度の一件についてなんにも心当りはねえかね。おいらの考えじゃあ、おかみさんと番頭の心中はどうも呑み込めねえ。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千代香はいよいよ素人しろとのお千代になって、ここに目出度めでたく神楽坂裏の妾宅に引越し、待合松風の世話で来た五十ばかりの老婢ばあやを相手に一日ごろごろ所在なく暮す身分となった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ちょっとなかまの揉め事がありましてね」とべつの男が云った、「お素人しろと衆にはごらんにいれたくねえんで、なに、すぐに片づきますから、なんならいっときまをおいて」
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ううむ、そうか、それじゃやっぱり、お前は海から足を洗い、素人しろとになっていたのだな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょうど、素人しろとのすることと反対のことをしている。
……一寸ちょっと素人しろとばなれがしてるのよ……
三の酉 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「をツさん、また詰まつてるな。素人しろとの煙草呑みはこれやさかいな。」と、俯いて紙捻こよりを拵へ、丁寧に煙管の掃除を始めた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
「そうすると、因果者には何もかかり合いのねえ素人しろとの餓鬼かな」と、半七は考えながら云った。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「——これどないしても着んならんことが出来たんで、大阪の店まで届けてほしいうてやんねえ。何ぞ素人しろと芝居でも始まったんかも分れへんけど、うち自動車待たしといて直ぐ帰って来るわ」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
然しながら若しここに古風な小説的結末をつけようと欲するならば、半年或は一年の後、わたくしが偶然思いがけない処で、既に素人しろとになっているお雪にめぐり逢う一節を書添えればよいであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)