紛失なくな)” の例文
さ、その御話しというのは、あれも紛失なくなった、これも紛失った、針箱の引出に入れて置いた紫縮緬の半襟も紛失ったと御話しなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところがこの二、三日、午飯時おひるどきになると、きっと誰かしらのお弁当が紛失なくなっている。今日も眼玉のひさしとあだなされている、あたしの妹の分がなくなった。
さて、ところで、紛失なくなったといえば、もう一つ紛失なくなった物があった。他ならぬ銀之丞の鼓であった。それと知ると平手造酒は、躍り上がって口惜くやしがり
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此処の主人が大金を出して抱えた花魁なら、大切な預り物よ、それが紛失なくなっては己が済まねえから、畳を揚げたり天井板を引剥ひっぺがして探そうというのが分らねえか
その方がおいでになったら、わたし共の頸飾りが、たちまちこんな不思議な紛失なくなり方をしたとなると、あなたは一体、このことを、どうお考えになります? アイネス嬢
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして不意に、「長火鉢の上に置いてあつた十円札が紛失なくなつた。あき子さんが盗つたのぢや」
主のない部屋は窓も箪笥の抽出も開放しになって、彼の所持品は悉く紛失なくなっていた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
して稻葉丹後守樣の屋敷へ行などと云しがはたしておもて質屋しちやにて百兩の金が紛失なくなりし由おそろしき盜人ぬすびともあるものかなて見れば是までも諸所しよしよ盜賊たうぞく這入はひりしに違ひなし此間もお内儀さんが浴衣ゆかたの古いのを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
稻垣さまが仰しゃった事をたしかに覚えているが、これが紛失なくなるとお屋敷の方も大騒ぎになるだろうし、また主人へはお屋敷からんな難題がかゝって来るか分らない
「小母さんは、坊っちゃんのお家の人じゃ、ないんですのよ。坊っちゃんお聞きになったことがある? 坊っちゃんのお家で、ちょっと紛失なくなったものがあって、それを調べに来てるんですのよ」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それと金側の時計が一つ紛失なくなりました、かねもございませんから、若し盗賊にでも取られまして、それであゝいう堅い気性でございまして、はッと取りのぼせましたか
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若「何が紛失なくなりましたか知りませんが、斯んな悪戯わるいたずらをなすってはいけません」