紆余曲折うよきょくせつ)” の例文
何人もうかがい得ないような巨木や密生した熊笹で蔽われ、道は、意識的に、紆余曲折うよきょくせつして造られ、案内なしでは、とても辿たどりつけない。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、紆余曲折うよきょくせつしばらくったところに右手の埋れ木にきざんだ文字と地図。あっと、ロイスが胸をおどらせてみれば……。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かなり人情の紆余曲折うよきょくせつにも慣れているから、距離と、歩数と、時間との翻弄ほんろうにも、かなりの忍耐を以て、ようやくめざすところの森蔭に来た時分には
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
後に来る者はさいわいな環境を受ける。ラスキンがここに到達するのに幾多の紆余曲折うよきょくせつを経たのに対して、モリスは躊躇なく簡明に先覚者の道を継いで進んだ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一から二、三と順次に十に至るは科学者の行き方で、一から八、八から二というふうに紆余曲折うよきょくせつして十に達した方が、小説として興味が多いように思われる。
科学的研究と探偵小説 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
苔で滑りやすい石畳路が紆余曲折うよきょくせつして続く。室の跡らしいもの、井戸の形をしたものなどが、密生した羊歯しだ類の間に見え隠れする。塁壁の崩れか、所々に纍々るいるいたる石塊の山が積まれている。
西引佐へ毎晩のように出掛けて早川君の兄貴達と折衝を重ねたのは僕だ。紆余曲折うよきょくせつは抜きにする。早川君は願いが叶って、荒神風呂の中島屋へ婿養子に来た。荒神風呂にかめつどい、鶴も巣籠すごもる峯の松。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼はことし五十三歳の武将としては千軍万馬の往来を積み、人間としても、世路せいろ紆余曲折うよきょくせつをなめ尽して来ている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月夜で、見通しのく限り、その一町半の間には紆余曲折うよきょくせつも無かったところに、女の影が見えません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雪崩れが、洞内の各所におこってぼうっと暗くなった。それが薄らぐと崩壊場所の奥のほうがぼうっと明るんでいる——穴だ。それから、紆余曲折うよきょくせつをたどって入口のへんにまで出た。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
紆余曲折うよきょくせつをたどたどしく辿たどって行って、最初からの経過を吟味してみても、だいたい乾板などという感光物質によって、標章形象化される個所ところは勿論のことだが、それに投射し暗喩するような
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)