立佇たちど)” の例文
すると間もなく彼の立佇たちどまっていた処から四五本目の、古い枕木の一方が、彼の体重を支えかねてグイグイと砂利ざりの中へ傾き込んだ。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云い云い立佇たちどまって眺めたり、そのまま通り過ぎて行ったりした。翁の存在を誇りとして仰いでいた福岡人士の気持ちがよくわかる。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そうしてその間をモウすこし行くと、見晴らしのいい高い線路に出る白い標識柱レベルの前にピッタリと立佇たちどまっている彼自身を発見したのであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私の直ぐ傍に立佇たちどまった正木博士は、リノリウムの床の上を、北側から南側へコツリコツリと往復しながら咳一咳がいいちがいした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかも学校まではまだ五基米キロ以上あるのだから、愚図愚図ぐずぐずすると時間の余裕が無くなるかも知れない……だから俺はここに立佇たちどまって考えていたのだ。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
時々立佇たちどまって仰ぎ見ると、雪空は綺麗に晴れ渡って、眼も遥かな頭の上の峯々には朝日が桃色に映じていた。
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は思わずえりを正した。それは立佇たちどまっているうちにヒシヒシと沁み迫まって来る寒気のせいではなかった。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
花壇の方向へスタスタと立ち去ろうとした……が……又もピッタリと立佇たちどまって振り返った。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と赤猪口兵衛が両手を打合わせて立佇たちどまった。口をアングリと開いて良助の顔を見守った。
蘭奢待らんじゃたい芳香かおり四隣あたりを払うて、水を打ったような人垣の間を、しずりもずりと来かかる折から、よろよろと前にのめり出た銀之丞、千六の二人の姿に眼を止めた満月は、思わずハッと立佇たちどまった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
全身汗にまみれて、息を切らした。そうして胸が苦しくなって、眼がまわりそうになって来た時、突然に、前をさえぎる雑木藪の抵抗を感じなくなったので、彼はヒョロヒョロとよろめいて立佇たちどまった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)