空閨くうけい)” の例文
一番最後に歌った意味は、『老母は愛児の帰りを待ちわび、紅粧の新妻淋しく空閨くうけいを守る。』というようなものである。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
うべしこそ、近藤は、執着しゅうじゃくの極、婦人おんなをして我に節操を尽さしめんか、終生空閨くうけいを護らしめ、おのれ一分時もそのそばにあらずして、なおよく節操を保たしむるにあらざるよりは
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいは玄宗皇帝時代に、空閨くうけいに泣いていたおびただしい宮女たちから受けた感化かも知れないが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これは友人にも多少の悪巧みはあったにしても、主たる動機は半平という男が細君に死別してからまる二年この方、空閨くうけいを貞淑に守りつづけているのを見ちゃいられなかったせいだった。
幸運の黒子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はこの春の始めにこの家にとつぎ、暮に夫に別れしなり、夫が遠征の百日間は、彼は空しく空閨くうけいを守りたりしが、夫を待ち得しと思いし日より、なお五十日の間、寂しき夜をうらみ明かし
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
麗人に空閨くうけいを十年守らせるとは何事だと、あちらで職について、帰りたがらぬ良致氏を無理に東京へ転任ということにしたということだが、十年ぶりで、帰る人にも悩みは多かったであろうし
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これがお佐代さんがやや長い留守に空閨くうけいを守ったはじめである。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
空閨くうけいを守らせるとはしからん。と、よく中年の男たちが言っていた。操持そうじ高き美しき人として、細川お玉夫人のガラシャ姫よりももっと伝説の人に、自分たちの満足するまで造りあげようとした。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)