福草履ふくぞうり)” の例文
梅屋と本陣とは、呼べばこたえるほどのむかい合った位置にある。午後に、徒士目付かちめつけの一行は梅屋で出した福草履ふくぞうりにはきかえて、かわいた街道を横ぎって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
少女はその石の上を福草履ふくぞうりのような草履で踏んで往った。広巳はうっとりとなって少女にいて往った。そこには丁子ちょうじの花のようなにおいがそこはかとしていた。少女の声が耳元でした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
床几しょうぎや、福草履ふくぞうりが、庭先に出される。検使役三名は、内匠頭を小書院に呼びだして
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その背後うしろには季節にかなわせた、八橋の景が飾ってあり、その前に若い娘太夫が、薄紫熨斗目のしめの振袖で、金糸銀糸の刺繍をしたかみしも福草履ふくぞうりを穿いたおきまりの姿で、巧みに縄をさばいていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御駕籠脇は黒蝋くろろうの大小さした揃いの侍が高端折たかはしおり福草履ふくぞうりと、九尺おきにげたお小人こびとの箱提灯が両側五六十、鬼灯ほおずきを棒へさしたように、一寸一分のあがさがりもなく、粛々として練って来ました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紺足袋こんたび福草履ふくぞうりでお前駆さきともで見廻って歩きます、お中屋敷は小梅で、此処これへお出でのおりも、未だお部屋住ゆえ大したお供ではございませんが、權六がお供をして上野の袴腰はかまごしを通りかゝりました時に
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)