福寿草ふくじゅそう)” の例文
おじいさんは、みぎたり、ひだりたりしてきますと、つじかどのところで、福寿草ふくじゅそうみちならべてっていました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
だが——今万吉の口からよろこばしい便りを聞いて、初めて、お綱の心と顔が、福寿草ふくじゅそうのように明るく笑った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生温かい陽は、平次の髷節まげぶしから肩を流れて、盛りを過ぎた梅と福寿草ふくじゅそうの鉢に淀んでおります。
マッカリヌプリは毎日紫色に暖かくかすんだ。林の中の雪の叢消むらぎえの間には福寿草ふくじゅそうの茎が先ず緑をつけた。つぐみとしじゅうからとが枯枝をわたってしめやかなささきを伝えはじめた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
福寿草ふくじゅそうは敏感な花です。最も鋭敏に温度を感ずる野草です。福寿草は残雪のまばらな間からかすかな早春の陽光ようこうをあびて咲き出るのです。そしてとても光に感じ易く、光をあこがれる花なのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
父親は今朝猫の額のような畠のかどで、霜解しもどけの土をザクザク踏みながら、白い手を泥だらけにして、しきりに何かしていたが、やがてようやく芽を出し始めた福寿草ふくじゅそうを鉢に植えて床の間に飾った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
また、鎌倉塗りの盆の上には、薬湯やくとうをせんじた薬土瓶くすりどびんと湯呑みが伏せてあって、そばには一鉢の福寿草ふくじゅそう。花嫁の丸髷まるまげに綿ぼこりがついているくらいな、目に触らないほこりがすこしたかッて見えます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)