神無月かんなづき)” の例文
神無月かんなづきの出雲の往来という類の、神祇官じんぎかんの記録と一致せぬ伝承などは、今一度この方面から仔細しさいに考察して見る必要があるように思う。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神無月かんなづきの松の落葉とか昔はとなえたものだそうだが葉をふるった景色けしきは少しも見えない。ただわだかまった根が奇麗な土の中からこぶだらけの骨を一二寸あらわしているばかりだ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長谷の御寺の観世音菩薩の御前に今宵は心ゆくほど法施ほふせをも奉らんと立出でたるが、夜〻に霜は募りて樹〻に紅は増す神無月かんなづきの空のやゝ寒く、夕日力無くうすつきて、おくれし百舌の声のみ残る
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「聞いたような名だがどこが珍しい」——「〽泉嘉門の珍しさは、なんにたとえん唐衣からごろも、錦の心を持ちながらも、襤褸つづれに劣る身ぞと、人目に見ゆる情けなや、ころは神無月かんなづきの夜なりしが、酒を ...
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一、 禅寺の松の落葉や神無月かんなづき 凡兆ぼんちょう
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
我邦わがくにの稲収穫期はまず旧九月一ぱいで、十月は神無月かんなづき、『延喜』の四時祭式を見ても、一社にも例祭の無い月である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わちきと小町の馴れめは、そも十月の神無月かんなづき野分芭蕉のわきばしょうに秋深く、きぬうつ音も消えがての、御所のお庭は葉鶏頭はげいとう、そこの廊下の真ん中で、オットドッコイおれがいう、おれと小町の馴れ初めは
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十月という月は神無月かんなづきともいって、もとは神祭かみまつりのほとんとない月だった。ところが神社大観などを開いて見ると、大小の社の祭典は、三分の二近くがこの月を以て挙行せられる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)