神楽殿かぐらでん)” の例文
反り橋のたもと神楽殿かぐらでんの前で、思わせぶりなポーズをしながら行きつ戻りつしていたが、三時近くまで、いちども声がかからない。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
石の鳥居をくぐって社殿までの右側に、お神楽殿かぐらでんがあって、見上げる欄間らんまには三十六歌仙の額が上げてあったかと思います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
向うの神楽殿かぐらでんには、ぼんやり五つばかりの提灯ちょうちんがついて、これからおかぐらがはじまるところらしく、てびらがねだけしずかに鳴っておりました。
祭の晩 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして神楽殿かぐらでんの前へ来て、伊織の姿を探すと、伊織は群衆の後ろにいた。背が低いので、樹の上にのぼり、こずえに腰をかけて、神楽を見ているのだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神楽殿かぐらでんかたわらには、周囲六丈四尺、根廻りは二丈八尺、と測られた神代杉がそそり立って、割合に背丈は高くないけれど、一つ一つの年輪に、山の歴史の秘密をこめて
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
本社ほんしゃは大工が誰で、蒔絵まきえ円斎えんさい、拝殿、玉垣たまがき唐門からもん護摩堂ごまどう神楽殿かぐらでん神輿舎みこしや、廻廊、輪蔵りんぞう水屋みずやうまや御共所おともじょ……等、それぞれ持ち場持ち場にしたがって、人と仕事がこまかにわかれている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのうるわしい星明りと火光に煙ってうごく群衆は、神楽殿かぐらでんめぐって、この山上の寒さを知らぬ人いきれにしていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三峰神社の神楽殿かぐらでんでは、今、湯立ゆだての舞の鈴と笛が太鼓につれて古雅こがな調べを合せておりましたが、三人はそれを杉木立の横にながめて、社家の玄関へ、頼む——と静かにおとずれます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、あって、早朝に、恩賞の沙汰が発表され、社前の満庭を、大宴会場として、神楽殿かぐらでんにおける奏楽と巫女たちの舞楽のうちに、万歳、万々歳を三唱して、いよいよ大饗の酒もりになったのであった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)