矯飾きょうしょく)” の例文
「馬鹿を言い給え、未完の物なら、発表しはしないよ」岡田がこう云ったのも、矯飾きょうしょくして言ったわけではなかったらしい。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
矯飾きょうしょくもなく、不平もなく、素直に受け取り、くびきにかかった輓牛ひきうしのような柔順な忍耐と覚悟とをもって、勇ましく迎え入れている、その姿を見ると
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一体以前の小説には女の美しい点が沢山書いてありますが、それが私どもから見ると案外女の矯飾きょうしょくな弱点を男が美点だと誤解している場合があります。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
野育ちだから、生来具有の百の欠点を臆面もなくさらけ出して、所謂いわゆる教育ある人達を顰蹙ひんしゅくせしめたけれど、其代り子供の時分は、今の様に矯飾きょうしょくはしなかった。みんな無教育な親達のお蔭だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
嘯詠寒山しょうえいかんざんに擬すの句は、このろうの行為にてらせば、矯飾きょうしょくの言に近きを覚ゆれども、もしれ知己にわずんば、強項きょうこうの人、あるい呉山ござんに老朽をあまんじて、一生世外せいがい衲子とっしたりしも、また知るべからず
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今までだれの前に出ても平気で自分の思う存分を振る舞っていた葉子は、この男の前では思わず知らず心にもない矯飾きょうしょくを自分の性格の上にまで加えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
尤もこの考えている事というのが、告白であるかないか、矯飾きょうしょくをしていないかという疑問が直ぐに伴って来る。
Resignation の説 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女は大昔から男に対する必要上幾分誰も矯飾きょうしょくの性を養うて表面うわべを装う事になっております。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)