真正面ましょうめん)” の例文
旧字:眞正面
老ボーイは、姿勢を正し、眼を糸のように細くし、鼻の穴を真正面ましょうめんにこっちへ向けて小汽艇しょうきていの汽笛のような声でいった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のんきな馬士まごめが、此処ここに人のあるを見て、はじめて、のっそり馬の鼻頭はなづらあらわれた、真正面ましょうめんから前後三頭一列に並んで、たらたらりをゆたゆたと来るのであった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お浜は真正面ましょうめんからその面を見上げて、この時は怖ろしいとはちっとも思いませんでした。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其火を見ぬ様になったはよいが、真正面ましょうめんに彼が七本松と名づけてでゝ居た赤松が、大分伐られたのは、惜しかった。此等の傾斜を南に上りつめたおかいただきは、隣字の廻沢めぐりさわである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
双方に気合きあいがないから、もう画としては、支離滅裂しりめつれつである。雑木林ぞうきばやしの入口で男は一度振り返った。女はあとをも見ぬ。すらすらと、こちらへ歩行あるいてくる。やがて余の真正面ましょうめんまで来て
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうどわたしの真正面ましょうめんに坐った老人は、主人の弥三右衛門やそうえもんでしょう、何かこまかい唐草からくさの羽織に、じっと両腕を組んだまま、ほとんどよそ眼に見たのでは、釜のえ音でも聞いているようです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それからネービー・カットのけむを私の顔の真正面ましょうめんに吹き付けた。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)