相殺そうさい)” の例文
けれどもそれほど不倫の行為とむ人たちが、男女相殺そうさいの恋愛の苦悩を述べ、歎き訴えるものには、同情を寄せるのはどうしたものだろう。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
物の気配を相殺そうさいさせ、その間に容子ようすをうかがって、避けるか、戦うかの判断を加えるための、秘密の術のひとつ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しかしそれは、こちらでお払いする分と、相殺そうさい勘定になりますから、たいしたことには、なるまいと思います
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
セットの各要素がかえって相殺そうさい相剋そうこくして感じがまとまらない。これらの点についても、監督の任にある人は「俳諧はいかい」から学ぶべきはなはだ多くをもつであろう。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もっとも日本の国土は南北に長くなっていて、北辺と南陲なんすいとを比べたらばよほど寒暑の差があるのではありますが、それでも寒流や暖流の関係でその寒さも相殺そうさいされて
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
相殺そうさいせず、よき調和を保つものになって行くと思われる、というよりも、今後の文明における趣味生活は、合理的社会生活から来る人間の幸福感によって、さ程まで
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
一方に自家の芸術良心を相殺そうさいして、結局西洋流の生活文学にもならず、日本流の名人芸術にもならないところの、似而非えせ曖昧あいまい文学で終ってしまっているところにある。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
二人の若者はこのような空々漠々くうくうばくばくのあいだに、いつでも眼に見えてくるものはお互のいのちがどういう機会にか、相触あいふれなければならない相殺そうさい的な予測がされてくることだった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
梅などは描いたような臥竜がりょうの姿をかたちづくっているが、ぜんたいとして見ると統一がなく、一本ずつがりぬきの木であることによって、互いにその値打と美しさを相殺そうさいしあっている
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
底からの太陽の輻射熱がこの利益を相殺そうさいしてあまりがあったと聞いている。
しかしそれにしても道徳的に彼の負いめを相殺そうさいするには事が足りた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは穢い印象を随分と相殺そうさいしているのである。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
そうして夕方から夜へかけては前者が後者と相殺そうさいする、そのために夕凪がかなりはっきり現れる、そうして海陸の位置分布の関係でこの凪の時間が異常に引延ばされるらしい。
夕凪と夕風 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、苦悩がないということは、常にその一面において、快楽がないということと相殺そうさいする。老いて人生が楽しいということは、別の側から観察して、老年のやるせない寂しさを説明している。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
東京や横浜へ送られると、運賃と相殺そうさいでフイになってしまう。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そしてこの長所は、日本語の他の不幸な欠点と相殺そうさいされる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)